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愛と情熱と ― 開発コンサルティングの父 橋本敏男の言葉と業績   
(株)レックス・インターナショナル編著/国際開発ジャーナル社 (2001年11月)

レックス・インターナショナルの橋本強司社長の父親で、日本工営の社長も務めた橋本敏男氏(故人)の業績と開発コンサルタントとしての“志と心意気”をまとめた貴重な一冊。すでに20数年前から「社会開発」の重要性を唱えていた“先駆的”なコンサルタントの思索と生き方の跡をたどる。開発のロマンと使命感を見失い、サラリーマン化が厳しく問われている開発コンサルタントの“原点”を見つめなおすタイムリーな好著である。(「国際協力ガイド2003」国際開発ジャーナル社、p.71、2001年10月)


まえがきより・・・

 橋本敏男は、日本の開発コンサルティング業界の草分けであり最大手企業である日本工営株式会社の第ニ代社長であり、私の父である。父の残したものをまとめて本の形にする時間と場とを確保することは、私が自らの開発コンサルティング企業を作る際に考えた、たくさんの目的の一つであった。1995年に株式会社レックス・インターナショナルを設立し、創業期を経てようやくこの本をまとめる気持ちの余裕が生まれた。

 本書に収めたのは、ほとんど日本工営の社内報「こうえい」に掲載されたものであり、橋本敏男の晩年、という言い方をするならばその10数年に相当するに過ぎない。その文章の中に、それまでの人生が引き写されているとは言っても、橋本敏男の一生のまあ言えば3分の1程度が本書に表されている、といったところであろう。したがって本書は、その生涯を描くものというよりは「開発コンサルタントとしての考え方・業績」を示すものである。その部分を象徴して「開発コンサルティングの父」と表現したのは、これからの開発コンサルティング及び日本の開発援助を通じての国際貢献に生かされるべき考えが四半世紀先立って先駆的に示されているからである。

 個人的動機付けはさておき、なぜ今、このようなものを世に出すのか、その意義は私にははっきりしている。橋本敏男の死後四半世紀を経て、当時の開発コンサルティング業界の志、心意気のようなものが、概ね失われてしまったかのような現状がある。この間、日本の政府開発援助(ODA)は急速に拡大し、1999年までに9年連続世界一を達成した。ODA実施の仕組みはそれなりに整備されてきたが、これはまた開発コンサルタントの主体性が失われていく過程でもあったようだ。ODA業務がルーティン化し、開発コンサルタントがサラリーマン化した傾向は否めない。

 日本は開発援助を国際貢献の大きな柱とし、援助の対象と量について国際公約もしている。言うまでもなく国際貢献の度合いは援助の質による。それならば援助の質向上のために官民の関係者は目の色を変えて取り組まなければならないはずである。援助の質は、それに携わる人材に一義的による。なかでも開発コンサルタントの果たすべき役割は極めて大きい。

 どうすれば開発援助の質を向上させることができるだろうか。とくに、開発コンサルタントにより大きな役割を果たさせることができるだろうか。援助の質及び開発コンサルタントの役割についての認識が社会に広く共有されることが望ましい。その前提として開発コンサルタントがもっと力をつけなければならない。それはそのとおりなのだが、より大切で、すぐに効果が上がるのは、開発コンサルタントを始めとして開発援助に携わる人達が、より良い基本的心構えを持つことだ、と私は思う。

 エンジニアリングを中心とする建設コンサルティングという呼称が、ソフト面を含む開発コンサルティングと変化し、開発援助を考える視点が多様化したのは確かである。それが開発援助を実施するうえでの視野の拡大、思考の深化にどの程度つながっているだろうか。それ以上に、開発援助にどれくらい心が伴っているだろうか。

 本文から次の引用をしたい。

コンサルタントは技術を売り物にするとはいうが、技術においてわれわれが世界のトップクラスになるには、若い人たちが非常によくつとめたとしても、せいぜい次代にまたねばなるまい。しかし日本人の勤勉さに加えて、もし誠意と親切とをきわめて良心的にサービスするなら、その点で世界一になることは次代をまつ必要はない(第3章5節)。

 ここでの技術とはエンジニアリング(ハード技術)のことを言っている。ハード技術において日本はほとんどの分野で今や世界のトップクラスであると言って良いだろう。上の文章が書かれて四半世紀余り、「次代」は既に到来したのである。しかし問題は、そのハード技術が良くいかされ開発援助に効果を上げているかどうかである。ハード技術をいかすのがプランニングやマネジメントを中心とする、いわゆるソフト技術である。

 ソフト技術は、一般化して言うとハード技術の人間に対する効果を図るためのものであるから、当然のこととしてそこには人間としての心が伴っていなければならない。もしソフト技術においても日本が世界一になるには「次代にまたねばならない」としたなら、ほとんど絶望的な話ではないだろうか。これはソフト技術を専門とする人達のことだけを言っているわけではない。開発援助のソフト化が世界的なすう勢と言われているが、欧米の援助機関から「導入」された「新しい開発概念」─ガバナンス、エンパワーメント、ジェンダー等─に、どれほど日本人の心が込められているだろうか。

 新しい開発概念は、たとえそれが借りものとしても、開発援助の目的や本質を理解するうえで助けになる、と私は考えている。しかしより大切なことは、理解したうえで何をするか、である。開発援助の質を高め、援助効果を高めて日本の国際貢献を向上させるうえで、一義的に大切なことは、できることを誠意をもってするという基本的心構えである、と私は思う。

 開発コンサルタントとしては、対象とする途上国との連帯感を持ち、国への思い入れと国民への思いやりとを持って、誠意ある良心的な仕事をしなくてはならない。何も日の丸を背負う程のことはないが、ODAの公的資金によって発展途上国のプロジェクト現場に来ていながら、日本の本社で日常業務を行っているかのような姿勢は論外である。

 日本の国際貢献を高め国益を推進するうえで、開発コンサルタントの果たすべき役割を自ら深く認識する必要がある。またその役割を十分に果たすことを通じて、同じ認識が社会に広く共有されるよう図っていかねばならない。私は、本書に収められている文章が、そのような認識を深め、また広めるうえで、一つのきっかけを提供しうると信じるものである。

株式会社レックス・インターナショナル
代表取締役 橋本強司

『愛と情熱と―開発コンサルティングの父 橋本敏男の言葉と実績』表紙


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